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2005.08.08

元気の出る小説

 読むと元気が出てくる小説というのがあります。
 僕が読んだ中で、まず最初に思い浮かぶのが椎名誠の『銀座のカラス』。
 そして、今回読んだ南木佳士『医学生』も、その仲間に加えたいと思います。

説明すると長くなるので省くが、私は純文学と大衆小説の区別は明らかに存在すると思っている。芥川賞の対象になる作品と直木賞受賞作は違うのである。
 『医学生』は意識して大衆小説にした。なぜなら、病んだ私は気軽に読めるものが欲しかったからである。書きながら自分が安らぎたかったからである。
(「五年遅れのあとがき」より)

 たしかにこの作品は娯楽的な要素が強い。性的な関心をくすぐる部分も少々あって、筋は読者の期待にほぼ添うように進行します。著者はあとがきで「肩の力を抜き、己を救うためのユーモアを交えた小説を書きたかった」とも言っていますが、読んでいる方も、優等生とは言いがたい学生達がそれなりに前向きに生きる姿に共感し、ほっと救われる思いがします。
 四人の医学生のうちの一人、妻子もある二十八歳の今野修三はもと高校の教師ですが、生徒の死をきっかけに医者になる決心をし、学習塾をしながら医学部に通っています。その修三が同じ実習グループの雄二に「子供ができると何か変わりますか」と聞かれ、答えた言葉が印象的でした。

「そうだなあ。子供ができるとどこか深いところに安心感が生まれるな。動物として子孫を残せたっていう安心感かな。…安心感ていうのは停滞を意味するわけじゃないぞ。それをバネにして自分をもっと高いところに跳ね上げてくれるものになったりもするんだぞ。…」

 この『医学生』を読んで出てくる元気も、自分の人生もまあいい人生じゃないかという安心感から生まれるのかも知れません。

 こういう小説も、たまにはいいな。

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